外国人看護師・介護福祉士候補者の受入制度について考える(看護師編)

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数年前のことだった思います。フィリピンやインドネシア、ベトナムといったアセアン諸国から、『介護の現場や看護の現場で研修的に仕事をしながら日本の介護福祉士や看護師の国家試験に挑戦する』という制度を利用し、たくさんの方が来日したという報道がありました。しかしながらその1年後、そのうちの多くの方が日本語での国家試験に合格できず、帰国を余儀なくされたという結果が報道されていました。

さて、まずこの看護や介護の現場に海外の方に来ていただいたのはどんな制度に基づいていたのでしょうか。実はこれは『経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者』受入制度に基づいての受入れです。そしてその対象国はフィリピン、インドネシア、ベトナムです。細かい規定は厚生労働省等の公式ホームページに譲るとして、大まかな制度の概要と、事実上失敗している看護師候補者の受入れ事情等を、多少の私感を混ぜながら説明させていただきます。

まずこの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入制度の大前提は、ざっくり言うと、フィリピン、インドネシア、ベトナムといった自国において、既に看護専門学校や看護大学等を卒業し、看護師または介護士の資格を保持している専門家が、それぞれの国の選抜を受け来日してきます。選抜を受けたら、まずは自国で日本語の勉強を行います。インドネシアやフィリピンは約6ヶ月間、ベトナムはなんと12ヶ月間の日本語研修です。

ほとんどの候補者は、医療や介護の現場ではプロフェッショナルでも、日本語はまったくできない状態で選抜されています。それでも自国での日本語研修を終えて来日するまでには、基本的な日本語レベル(とは言ってもN4レベル)はマスターしてきています。

しかし…

日本人のベテラン看護師であっても、ちょっとした気の緩みも許されないのが医療現場です。点滴液を間違えてしまえば人が亡くなってしまいます。ダブルチェック、トリプルチェックは当たり前、細心の注意が必要な戦場です。

医療現場には暇な時間は皆無です。来日後、数か月の日本語研修と看護導入研修を受けた外国人看護師候補者は、その現場に放り出されることになります。そして忙しい仕事の日々の中看護助手として働き、たった3回のチャンスしかない与えられない正看護師の国家試験に挑みます。この国家試験に3年以内に合格しないと帰国を余儀なくされます(最近は成績優秀者には延長のオプションが用意されています)。

外国人看護師候補者は日本人の正看護師国家試験の受験者に比べれば、ほんの少しだけ下駄を履かせてはもらえます。でももちろん日本人と同じ内容の国家試験の合格が義務づけられます。履かせてもらっている下駄は、①すべての漢字にひらがなのルビをふる、②専門用語は英語での併記記載がある、③試験時間が日本人の1.5倍であることの3つです。

さて皆様、ご自身の立場に置き換えてみてください。それがあなたの専門分野であっても、わずか数年で、まったく言葉を知らなかったベトナムの地において、現地の方でもそれなりに勉強しないと合格しない難しい試験なのに、ベトナム語で受験して合格することはできますか。それも慣れない土地で仕事と両立させながら…

いくら頑張ったとしても試験問題がベトナム語では、いくら何でも無理があります。

ちなみに次の数問は、平成28年度の正看護師の国家試験の問題の抜粋です。

【平成28年度の正看護師国家試験より抜粋】

Aちゃん(生後10か月、男児)は、先天性心疾患のため手術を受けた。Aちゃんの体重の変化を図に示す。手術後から現在までの体重の変化に対する評価で適切なのはどれか。

  • 1.体重増加の不良
  • 2.過度な体重増加
  • 3.標準的な体重増加
  • 4.キャッチアップ現象

血管に吻合がないのはどれか。

  • 1.皮静脈
  • 2.冠動脈
  • 3.膝窩動脈
  • 4.腸絨毛の毛細血管

血液型で正しいのはどれか。

  • 1.日本人の15%はRh(-)である。
  • 2.A型のヒトの血漿には抗B抗体がある。
  • 3.B型のヒトの赤血球膜表面にはA抗原がある。
  • 4.Coombs〈クームス〉試験でABO式の血液型の判定を行う。

皆様、中学や高校の英語の授業で長文読解をしていたとき、読んでいる途中で他のことが頭に浮かんできたりして、意味不明になったりしたご経験、ありますよね。外国語を読むということはそういうことです。東京大学の入試の英文であっても、アメリカの中学生でちょっと賢い子ならあっという間に読みこなしてしまうでしょう。でも外国人、英語を母国語としていない日本人は、どんなに勉強をしてもアメリカのネイティブ中学生にも勝てません。ネイティブの人の2倍も3倍もの時間をかけて読み砕いて、初めてぼんやりと意味が理解できてきて、数回目に読んだとき、やっと核心部分が読み取れるようになるのです。

ほとんどの外国人看護師候補者は、看護大学や看護学校を出てから来日しています。来日前には日本語の研修期間もあります。そして来日の頃には、どんなに若くても既に24歳程度になっています。それから3年間、必死に仕事と勉強を両立させて頑張ります。でも..

これがEPAの下、来日した外国人看護師候補の正看護師国家試験の合格率の推移です。

外国人看護師候補の国家試験合格率

日本人が受ければ90%以上の合格率です。でもEPAの外国人看護師候補の合格率はわずか7.3%です。そして彼ら、彼女たちの大半は、そのときすでに30歳。本国に帰って日本の医療現場で看護助手をしていた経験(これは患者さんのおむつを替えたり、立ち上がるのを手伝ったり)で、つぶしが効くのでしょうか?

実際に来日される外国人看護師候補者の方たちも、日本人同等の給与は保証されているものの、来日費用や生活費等で負担も大きいです。日本の受入医療機関も、国の補助がでるとしても相応の研修費用等の負担が強いられます。

日本の医療機関、今はこの外国人看護師候補の受入れには消極的になっている様子です。昨年まで受け入れていた機関が、今年から受け入れを取りやめにした、そんな話が続出してきています。

本気で外国人看護師を医療現場に入れるなら、日本の看護学校に18歳くらいで入学して、日本語を覚えながら日本人が3年なら外国人は最短3年、最長5年で卒業、帰国後も簡単な試験を受ければ母国の看護師としても活躍できるみたいな制度が欲しいところです。あくまで私見ですが。

【まとめ】

  • 外国人看護師候補者の受入れ制度は、現在までの段階では失敗と言わざるをえない。
  • 今後はもう少し若くして資格が取れるような仕組みへの変更が必要なのでは。

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